うさみ本棚

うさみの本棚です。おすすめされた本を読みますので、おすすめ教えてください!

七つの会議を読んで。読書感想文。

七つの会議 (集英社文庫)

いやー、いまどきの小説のお手本みたいな本だった。


小説の書き方って、道具の進歩だけじゃなくて、
メソッドとか伏線回収の仕方とかも進化してるよねー。
これはいい小説だったわ。


柚木 麻子さんのランチのアッコちゃんあたりもその
新しいメソッドにグルーピングしたい小説だったな、と思う。
冲方丁さんの十二人の死にたい子どもたちもこの
「ぐるっと回って中心にたどり着く」みたいなストーリー。


ドラクエ4っぽい作りなんですよ。
あっちでもこっちでもいろいろ起きて、最後にそれらがまとまって、
大きなエンディングに向かっていくような話。


画期的なスタイルだよね。
一本調子ではなくて、あえての遠回り。


「画期的」って言葉をよく使う人と以前一緒に仕事をしていて、
面白い言葉だな-、と思ってたんです。


「一線を画す」とは?意味や使い方をご紹介 | コトバの意味辞典を見ると

「画」は、「区分け」とか「境」という意味があり

と書いてある。
「期」は、

①とき。おり。定められた時。

と、期 | 漢字一字 | 漢字ペディアには書いてある。


期を画すような小説が誰の何だったのかはわからないけれど、
これは明らかに「今の期」の小説だと思う。
大型恐竜の時代と小型哺乳類の時代くらい違う。

どんな本でした?

ある大企業の子会社とその取引先の中で起きるいろいろな出来事を描きつつ、
ひとつの大きな事件の全貌が徐々に見えてくる作りの企業ミステリ。
「いろいろな出来事」には会議のシーンが出てきて、
会話の中で話が進んでいく。


ネタバレになることは書かないけれども、
本当にこういうことありそうだなー、という部分と、
いやいやそんなことないでしょー、と思わせる部分がある。
また、社会人生活が長い人なら「これ自分だったら何をどうする?」
みたいなことを考えるのも楽しいかと思います。


人物のキャラクター付けが上手で、
なんというか実体っぽさがあるのがとてもいいです。

こんな人に読んでほしい本でした

・ふつうに企業内を舞台にしたおもしろい小説が読みたい
・これの映画を見たので原作も読んでみたいと思っている
・企業内で悪事を働いている
・企業で働き続けることに疲れている
・生産性とか結果を出すことについて考えることがある

「禅とオートバイ修理技術」を読んで。読書感想文。

禅とオートバイ修理技術―価値の探求 (シリーズ精神とランドスケープ)

先日読んだ「世界はシステムで動く」が、超良かったので、そこで引用されてた本を読んでみた。


するとどうでしょう。
これが様々な意味でヘビーな一冊だった。


禅とオートバイ修理技術という本だから、
禅とオートバイ修理技術の話かと思ったら、
「オートバイで旅する父子、父は手術で記憶を失った元哲学者にして今は技術マニュアルライターでオートバイライダーでオートバイ修理はできる範囲で自分でしたい派。過去の記憶を思い出したり、記憶を失う前の自分の知り合いを訪ねたり。でも本の半分はずーっと哲学的思想を語り続ける『シャトーカ』のパート」という本。


なにがヘビーって、ちょっと読み飛ばすとさっぱりわからなくなったり、
ちょっとも読み飛ばしてないのに突然わからなくなったりする。
え?今なんの話?って。


そして、ちょっと読み飛ばそうとするとそこにガツッとくる真理に見えることが書いてあったりする。
「クオリティ」は属性ではなくて根源なのだ!
みたいなことが。

クオリティってさ、そのものが持っている何かではなくて、
観察するものがいて初めて現れるものだから、
実際はないんじゃないの?みたいなことを考えるのよ。バイク乗りながら。
んで、いやいや、クオリティが主でそのものはそれにくっついてるものに過ぎんぞ。と発見したりするの。


んで、バイクの旅は最初息子と友達2人の4人で進むんだけど、
途中からは父子二人旅になって、だーんだん暗くなっていく。
寒さ暑さに雨、疲れてもう帰りたい、温かいところで眠りたい、
人間らしい面がどんどん出てくる。


漂流ものとかだとトイレの描写がある無しでだいーぶ差が出るよな-、
と思ってるんだけど、
こっちはトイレ的描写も時々でてきます。
バイク旅の途中でおなかの調子悪くなるとか、可愛そうすぎるぞ。


バイク修理については、
「できる範囲のことは自分で修理するスタンス」というのが、
機械やITに関わる人には共感できるところだと思う。
適切にメンテナンスすること、機械の状態を見ながら進めること。


あとは大学内での変な教授と変な生徒のバトルみたいなパートもある。
哲学、奥深い。
「誰の真理を真理とするか」みたいなことを使って
とにかく相手を凹ませようとする人々。不毛だね。


これはね、一回読んで終われない本だよ。

「うちの旦那が甘ちゃんで」を読んで。読書感想文。

うちの旦那が甘ちゃんで (講談社文庫)
時代劇。です。
江戸時代の同心の旦那さんとその奥さんのお話なんだけど、
大部分がほのぼの。
ごくたまに捕物帖的な展開。


水谷豊さん主演の「相棒」という長いことやってるドラマがあるけれども、
あれは時々シリーズ代わりのタイミングで相棒がかわったりする。
ところが、この「うちの旦那が甘ちゃんで」では、相棒が変わらない。
だって相棒っていうか奥さんだし。
むしろ相棒である奥さんが主人公では?と思うほど活躍する。


一瞬「この同心の男が主人公?」と思うんだけど、
ほんとはその人はただの助演男優で、
奥さんが主演女優なんだよね。


頭の回転が早くて、美人で、情報収集の能力にすぐれていて、
おまけに旦那さんの仕事に貢献したいという気持ちが強い。
困った人を放っておけない人情家で、
自分の目に映る世界を愛している。


鬼平犯科帳あたりと同じ時代の話なんですよ。
あっちがハードボイルドだとしたらこっちはスタンリー・ヘイスティングスとかブルームーン探偵社っぽいようなゆるさっぷり。
こちらは花の大江戸八百八町ですが。

どんな本なの?

江戸時代の同心とその連れ合いを主人公にした
時代劇ドラマです。
軽い印象で、だけど時々事件も起こる世界。


捕物的なドタバタはあんまりなくて、
さわやかな印象。
油を使わない揚げ物にサルサソースをかけて食べるくらいサラっといただけるんだけど、
素材の旨味があとからグッと来る感じ。

こんな人に読んでほしい本でした。

・時代劇、飽きた
・恋愛ものとか、飽きた
・夫婦がほのぼのする小説とか読みたい
・怖くもないし不安にもならない本が読みたい


ちなみにお盆に久しぶりに会った母親が「こんなんあるけど、読む?」と貸してくれた本でした。

ずるいえいごを読んで

ずるいえいご (日経ビジネス人文庫)

英語。っていうか語学。
使わないと上手にならないんですよ。どうやら。
当たり前みたいな話だけど、言葉は使わないと上手にならない。
でも、使う言葉がありません!みたいな哲学的な問いに答えてくれる本。


ずるい英語っていうか、すてる英語なんですって。
捨てる英語。
でも、「すてる」ってなんかイメージしにくいから
「ずるい」にしたんだそうです。


なにを捨てるかというと、
英語の勉強のうち8割くらい捨てる。
難しい単語を網羅的に覚えていくのではなく、
わからない言葉は、使える言葉を使って表現しよう。
というもの。


英語ネイティブのこどもは、
ネイティブじゃないけど単語をたくさん知ってるネイティブじゃない人よりも
英語で会話ができる。
知らない単語が出てきても、知ってる単語からなにかしら言い換えできるし、
わからなければ聞き直すから。

どんな本すか

「背脂のゲリラ豪雨や~」を英語で言うとしたら、なんというか、
に対する答えは
「So oily」とか「a lot of oil」でよい、と。
「背脂!?なに!?辞書ひかないと!OK Google!」ではないよ、と。


「ひきこもり」みたいな単語も、
わからなければ使える単語の組み合わせで表現すればいいじゃん。
と教えてくれる本。
そして、そのようなトレーニングのためには、
「一つの日本語を4種類の英文で言い表すトレーニング」をするといいよ、と導いてくれます。


まんが家さんと英語教育者さんが作った本なので、
スルスル進みます。
西原理恵子さんの旅行記みたいなね。

こんな人におすすめです

・英語の勉強がしたいんじゃなくて、英語でコミュニケーションがしたい
・英語を話せる人とともだちになりたいと目論んでいる
・っていうかとりあえず英語圏に引っ越そうと思う
・旅行する時とかに英語ちょっと話せるといいなーと思う
・っていうか日本語でも時々言葉が出てこなくて言い換えが大事だと思い始めている

カズオ・イシグロさんの「浮世の画家」を読んで。

浮世の画家 (ハヤカワepi文庫)

あとがきだかにも書いてあるけど、不思議な世界観なんだよね。
日本っぽいんだけど、日本っぽくない舞台。
戦後っぽいんだけど、戦後っぽくない時代。
家族っぽいんだけど、家族っぽくない人々。


登場人物の心を緻密に緻密に描いていく、
という点に関してはやはりものすごくて、
セリフ以上に登場人物に語らせる。
ドラマとか映画だったらセリフ少ないんだけど
むっちゃくちゃ表情や動きの演技がたいへんな感じ。

どんな本ですか?

戦後しばらく経った頃の日本のどこかの街を舞台に、
画家である老主人公と、その家族や友人、
元友人と言った人々との交流を描く物語。
派手なシーンは特に無く、地味である。


心の動き、勘違い、記憶違い、
みたいなカズオ・イシグロさんの必殺技が連続して出てくるので、
その点ファンは要注意。
ストーリーよりも演技で成り立ってるような、
むしろ演技が主でストーリーが従なようなお話。


後の傑作はこの「演技派な文章」に、
特殊な環境や濃厚なストーリーを加えてできたんだな、
と思います。

どんな人におすすめしたい本ですか?

カズオ・イシグロファン
小津安二郎ファン
・文章、特に物語を書く勉強をしたい人
・主人公が老人のストーリーが大好きな人
 (いるのか?)

「世界はシステムで動く」を読んで。読書感想文。

世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方
なんだか不思議な読後感のある本でした。
正直シビれた。


最初に出てくる引用文がね

工場を取り壊しても、工場を作り出した理屈がそのまま残っているなら、その理屈が別の工場を作り出すだけだ(後略)

出典:ロバート・パーシグ(禅とオートバイ修理技術)
ですよ。
シビれるでしょう。


ここで言う「システム」って「情報システム」だけの話じゃなくて、「システム」のことね。
企業も、惑星も、発電所も、農園も、アリの巣も、お風呂もシステム、エコシステムもシステム。
もちろん情報システム的なシステムもシステムね。


システムかそうじゃないかの見分け方が書いてあったんだけど

A)部分がどれかわかりますか?
B)部分は互いに影響を与えていますか?
C)部分が合わさることで、各部分だけのときとは異なる結果を生み出していますか?
D)その結果(経時的な挙動)は、さまざまな状況下でも持続しますか?

の4つ。
ほら。すごいイイでしょ?


んで、フロー(インプットとアウトプット)とストックに着目する。
お風呂と企業なんて全然別物じゃん!と思うけど、
なかなか共通点があるものなんですよだってどっちもシステムだから。
部分があって、互いに影響していて、合わさることで各部分だけのときと違う結果が出て、さまざまな状況下で持続する。


全てに対してあらかじめ対応がされているシステム(変わらないシステム)は脆弱で、環境の変化に対応できるのが強いシステムだよー、というレジリエンスの話とかは本当に
「おっしゃるとおりでございます。」
っていいたくなる内容。


いろいろな状況に対応できるようになってるのも大事だけど、
想定していない状況が起きても被害が小さくなるようになってる。
というのも大事。みたいな話。

どんな本なの?

システムとは何か、
システムは何がいいのか、
システムはどんな動きをするのか、
システムを良くするためにどこに注目すべきか、
システムを良くする際にはまってしまう落とし穴はなにか。
みたいなことが書いてある尊い本です。


料理本で言うならさしすせそから書いてあって、
なのに慣れてる人にも響くような本。
料理の四面体みたいな本。

こんな人に読んでほしい本でした。

・世界のことわりを知りたい人
・ストックとフロー、という言葉の奥深さを感じる人
・壊れないシステムを作りたい人
・意図しない挙動をするシステムに疲れている人
・「システム」に関わる全ての人

十二人の死にたい子どもたちを読んで。読書感想文。

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)
昔さー、完全自殺マニュアルってあったじゃん。
ほんとに自殺したーい!とかはまったくなくて、興味本位で見ていた。
まあ、自殺したくなる気持ちがわかるような時だってありますよねー。
死ぬほどのことはないけども。


自殺する人ってどんな気持ちなんだろう。
って考える時にさ、
「自殺する人」ってひとくくりにしてる時点でたぶん間違いなんだよね。
一人ひとりに死にたい理由や状況があって、
その結果死を選んでいる。


だから、「どこどこの国は自殺者が多くて云々」とか
「都会では自殺する若者が増えている」みたいな
統計じみた話って個人個人では知ったこっちゃないんだよね。
そんで、安楽死したい人を尊重するかどうか、みたいな話もまだまだ語り尽くされていないテーマなんじゃないかと思うのよ。

どんな本ですか?

タイトルでほぼほぼ表現しきってるんですが、
十二人の死にたい子どもたちの物語です。
比喩でもなんでもなく、十二人の死にたい子どもたちの話。
webサイトがきっかけで廃病院に集まった中学生と高校生が合わせて十二人。


それぞれの事情があって、それぞれなんとか死のうと思ってる。
果たして十二人は無事に死ねるのか!
っていうか死んだら無事じゃないんじゃないか?


集まりにはルールがあって、
全員の意見が一致しない限りは先に進まない。
納得できないものには納得できないって言える。
それぞれ死にたい理由が違うから、お互いに共感できない人もいる。
死にたいのは共通だけど、立場も理由も全然違う。


アクション性はほぼ無し。場所移動も建物内くらい。
会話とヒント程度に見え隠れする心理描写が主体。
十二人全員が主人公と言える。
物語が進むにつれてどんどんそれぞれの個性が見えてくる。


登場人物の描き分けが巧み。
絵が上手な漫画家さんのまんがを見るみたいな楽しさ。
描き分けが雑でもおもしろい人ももちろんいるけども、
文章読んでるだけで顔が思い浮かぶような物語。


この人の本ってマルドゥック・スクランブルだけしか読んでなかったのだけど、
こんなんも書いてるの、すごい。
他のも読んでみたくなるな。
「新世代」って感じするよね。


登場人物の一人がホワイトボードに書き込むシーンがあるのね。
その「ふわっとした状況を明確にしていくシーン」は
マルドゥック・スクランブルのポーカーのシーンを思い出すような描写だった。
状況に輪郭を与えていくみたい。

こんな人におすすめしたい本でした。

・自殺する人の状況や心に興味がある人
・人はなぜ自殺するのか知りたい人
・謎が解けていくのを眺めたい人
・殺人から始まらない推理ものがあっていいと思う人