癌で亡くなったSF作家、伊藤計劃さんの小説です。
長編はもう本当に本当に作り込まれたものがあるので、
そっちはそっちでぜひ読んでほしいんですが、
これは短編集です。
天才画家のラフスケッチみたいな短編集。
どこかに矛盾があってもおかしくないくらいの、素材に近い状態。
大人気連載まんがが始まる前の短編読み切りを見てる気分。
ワンピースが始まる前のROMANCE DAWNみたいな。
どんな本なの?
007の裏側を描くストーリーを書いてみたり、
メタルギアソリッドが好きすぎてアナザーストーリーを作ってみたり、
近未来の戦後の元少年兵の苦しみを描いてみたり。
うん。
なんというか、完成品の長編を読んでいた時は
「よくこんなの書けるなー」と思っていました。
でも、いきなりその高みにいたわけではなく、
ちゃんと助走があったんだね。
Disney Pixarの映画を作る時のブレイントラストってミーティングのように、
「最初はつまらないものをどんどん磨き上げていく」過程がちゃんとあるんだなー、
と思う。
とはいえ、ラフスケッチの段階でもうすでに
「こんなの、よく書けるな…」と思わされるような文章です。
アイデアもいいし、描き方/見せ方も大好き。
いきなりまんががはじまったりするのは驚いたけどね。
上に書いた少年兵の話なんて、
ほんとにこの先ありそうな話なんだよね。
がっつりネタばれしない程度に書くと、
「もしも、戦後に敵を敵として認識できなくなる技術があったら」
みたいなテーマ。
幼いころから根絶やしにするべし!と教えられた敵を
敵として認識できなくなったら平和は来るの?
みたいなテーマ。
おもしろおそろしい。
たぶん、サビを思いついてからAメロBメロを作るミュージシャンみたいな
人だったんだろうなあ、と思うんです。
アイデアありきで膨らませて、いらない部分を削っていって。
ああ、ほんと、新刊が読みたいけど読めない作家ランキングのかなり上位にいます。
伊藤計劃さん。