うさみ本棚

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船戸与一 さんの虹の谷の5月を読んで、読書感想文

[まとめ買い] 虹の谷の五月(集英社文庫)

良い読書でした。


背景の作り込みがうまい。
湿気や温度の描写がうまい。
まんがで言うなら劇画。
読んでると手が黒くなりそうな劇画。


登場人物の名前をフルネームで出す回数がここまで多い小説って
珍しいんじゃないだろうか。
そこまでやらなくても、と言うくらいフルネームが出てくる。
ふつうファーストネームかラストネームだけでいいじゃないですか、でもこのフルネーム連発は意図的にやってるように感じる。


フィリピンのセブ島の田舎町が舞台なんだけども、ヨーロッパっぽい名前の人もラテンっぽい名前の人も日本人っぽい名前の人も出てくる。
でも、ファーストネームだけがそんなんで、下の名前はフィリピンっぽい名前。
ほとんどがフィリピンで生まれ育ったフィリピン人。
というかガルソボンガ地区人。


なんというか、ほぼ一民族かつ一地域の話なのにやけに国際的に感じるんです。
世界中のお困りが姿形を変えてつぎつぎどんどん起きる。


ラモンとトシオとリベルタとガブリエル。
ホセとメグとレオンとセーラ。
登場人物のファーストネームを並べただけで、ぐちゃぐちゃ感あるでしょ?
このぐちゃぐちゃがね、舞台の混沌を表してるんですよ。
んでそのぐちゃぐちゃの上でぐちゃぐちゃな犯罪やらなにやらが起きる。


「田舎町」なんて言うと平和そうだけど、全然平和じゃない。
山にゲリラの残党が住んでて時々ゆすりに来たり、
町外れには銃の密造で暮らしてる人もいるし、
警察をはじめ公的機関も軒並み悪人揃いだし。


特攻野郎Aチームくらいはっきりした悪人と善人の対比。
違うのは悪人だけが負けるような理不尽がないとこ。
悪も善もないっすわ。教会は出てくるけど神も仏もないよ。

どんな本なの?

フィリピン、セブ島の田舎町に暮らす日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれた少年のお話。
少年は祖父と2人で暮らしている。
13歳の5月、14歳の5月、15歳の5月の話。
毎年いろいろな事件が起きる。
成長というのは強くなることなのか鈍くなることなのか。


主な舞台は田舎町とその近くの山と谷。
あと、近くの都会と遠くの大都会。
冒険活劇と言うには血生臭く、アクション小説と言うには主人公がこども過ぎる。
でも、ものすごく密度が濃いから、あっという間に別人みたいに変わっていく。


なんか濃いの読んじゃったなー、濃いの読んじゃったぞー。

こんな人に読んでほしい本でした

・「ゲリラの残党」と言われるとちょっと見てみたい人
・「闘鶏」と言われるとちょっと見てみたい人
・「虹の谷」という言葉で谷に美しい虹がかかってるのをイメージした人
・少年が成長する物語と言われるとちょっと見てみたい人
・派手なドンパチのある劇画好きな人
・ピストルよりライフルより自動小銃が好きな人


ここから下は完全に余談ですが、
私、人と話すときに知り合いとか友達の話になるとその知り合いや友達の名前をよく出すんです。
「谷本さんという人がいて千葉県の船橋に住んでるんですけど」みたいな。
マギー司郎か、っていう。
でもこれをするとしないとで、相手にイメージしやすいかどうかがかわってくると思うんだよねー。
なによりおもろいし。